田辺寄席、演題「怪説」
2012年2月
演芸ライター・上田文世
●第595回 2月18日昼席
《じっくりたっぷりの会ー笑福亭鶴志の段》
開口0番(文太の前ばなし)「ワ」の巻
/「笑い噺」
一、江戸荒物 笑福亭べ瓶(鶴瓶門下)
江戸と言えば、江戸っ子のべらんめえ口調。でも、落語を聞いても「べらんめえ」は出てこない。「何を吐(ぬ)かしゃあがんでぇ、べらぼうめッ」『大工調べ』と、「べらぼう」を使うのがべらぼうに多いそうです。
二、へっつい盗人
笑福亭鶴志(六代目松鶴門下)
へっついさんや七輪(かんてき)は、ほとんど見かけなくなりましたが、七輪はアフリカで重宝されているそうです。難民救援で活動する人たちが、現地の土を使い作り方を指導していると、新聞記事にありました。
三、兵庫船 桂 文太(五代目文枝門下)
多くのサメがアジアで殺されフカヒレスープになっていると、サメに襲われた被害者らが国連に訴えました。その一人は「仕返しにサメステーキを食べようと思ったが思い直した」と言っています。これも新聞からです。
四、三人上戸 笑福亭忍笑(六代目松鶴門下)
「戸」は大人の男の人の意。古代社会では大人の男が稼ぎ人筆頭。大人の男が大勢いる家庭はよく稼ぐことができるから「上戸」です。身入りがいいから当然、高いお酒もよく飲めます。それが上戸=酒飲みの語源。
五、花筏 笑福亭鶴志(六代目松鶴門下)
昭和41年、大相撲の世界で「花筏」を名乗る力士がいました。大関でなくて十両、しかも花筏を名乗って1場所だけで引退しました。あの大鵬=大鳥に対抗して「燕雀(えんじゃく)」を名乗ったこともありました。
●第596回 2月18日夜席
《じっくりたっぷりの会ー桂雀松の段》
開口0番(文太の前ばなし)「ン」の巻/「ん」
一、酒の粕 桂ちょうば(ざこば門下)
酒粕のアルコール度数は約8l。ビールは5lですから、そのまま食べると酔ってくるでしょうね。粕汁にすると、アルコールは蒸発しますから子どもさんでも大丈夫。今夜は笑いで心暖め、粕汁で体を暖めますか。
二、般若寺の陰謀 桂雀松(二代目枝雀門下)
正しくは『磐若寺の陰謀』。「奈良に実在するお寺、般若寺がモデルと思われたらいけないから、磐若寺にしました」と作者の小佐田定雄さん。噺家さんはどうかは知りませんが、落語作家は気ィ遣い≠ネんです。
三、不動坊 桂 文太(五代目文枝門下)
作者は幕末から明治中期の人、二代目林家菊丸。生没年不詳だが『猿回し』『吉野狐』などの作品を残している。裏長屋に生きる人
物や情景の描写に巧み、大津絵や春雨の替え唄なんかも上手な人だったそうですね。
四、愛が止まらない 月亭遊方(遊方一門)
花粉症の季節→くしゃみ・鼻水が止まらない。震災・津波からもうすぐ1年、未だに続く惨状→涙が止まらない。ダルビッシュ投手の獲得費用約85億円→驚きが止まらない。さて、愛が止まらないのは何でっしゃろ?
五、百年目 桂雀松(二代目枝雀門下)
社員がちょっとしたミスをするとすぐ切り捨てる。費用がかかるので常雇いは置かず、派遣で間に合わせる。残業代を支払わない。現代の経営者さん、社長!、ちぃ〜とはこの噺に出てくる大旦那を見習え〜。
●第597回 2月19日昼席
《じっくりたっぷりの会ー桂 あやめの段》
開口0番(文太の前ばなし)「質問に答えて」
一、牛ほめ 桂華紋(文華門下)
新築の家をほめたり、牛をほめたりしてお年寄りから小遣いをせしめる。お年寄りを不安に陥れたり、儲け話を持ち込んで大金を払い込ませる。大阪の阿呆の考えと、振り込め詐偽、似てると思いません?
二、雑俳 桂 あやめ(あやめ一門)
「雑俳」とは何か。五・七・五でどうぞ。
雑俳は 万治(1658〜1661年)の頃に 生まれたよ▽上方で まず大はやり 後江戸へ▽面白い ことの始まり 大阪や▽ひったくり 振り込め詐偽も 大阪や。
三、文六豆腐 桂 文太(五代目文枝門下)
豆腐の出てくる噺はたくさんあります。思い付くだけでも『千早ふる』『鹿政談』『ちりとてちん』『田楽喰い』などなど。お得意さんをダイズにし、マメに頑張れば、客足がキラズに流れてくるからか。
四、紀州 桂文昇(五代目文枝門下)
紀州・和歌山市の人口は40万人弱。市長は誰? 即答できません。尾州・名古屋市の人口は226万人で、市長は河村たかしさん。今、もし、鍛冶屋さんの前を通ったら「テンカトン」のは「ビシュー」でしょうか。
五、妙齢の女子の微妙なところ
桂 あやめ(あやめ一門)
老齢、高齢、暮齢、頽齢、寿齢は、年寄りの形容とすぐに分かりますが、弱齢、稚齢、妙齢の違いは? 「妙」は辞書によると、女性の小柄で細く、何となく美しい姿を示しているのだそうです。