田辺寄席、演題「怪説」
2012年3月
演芸ライター・上田文世
●第598回 3月17日(土)昼席
《新・じっくりたっぷりの会ー桂 枝女太の段》
開口0番(文太の前ばなし)
番外「おねおね」パート1
一、みかん屋 桂 三幸(三枝門下)
「こんな仕事をしないか」。甚兵衛さんの誘いで男はみかん屋を始めます。売りにいった先の長屋の人も優しい。実は我が息子・40歳は失業中。甚兵衛さんのような人がいたらなあ…。落語を聞きながら筆者は涙です。
二、四人ぐせ 桂 枝女太(五代目文枝門下)
自分では自覚しないが、癖はみんなそれぞれが持っているそうです。腕組みをして人の話を聞く。手に何かを持って、それを動かしていないと気がすまないなど。筆者は原稿を書きながら髪の毛をかきむしっています。
三、平兵衛野盗伝奇
桂 文太(五代目文枝門下)
「野盗」といえば、まず思い起こすのは黒澤明の『七人の侍』。野盗の一団が村を襲っては、収穫物をごっそり奪い去ります。映画を見ながら、筆者はこんな川柳を思い出します。「大名の過去は野に伏し山に伏し」
〈仲入り〉
四、ぞろぞろ 桂 団朝(米朝門下)
一心に信じていれば、ご利益はぞろぞろと現れます。付け焼き刃、かっこうだけの信心では報われません。筆者は学問、文筆の神様「天神さん」への信心が足りないようで「怪説」の原稿が、ぞろぞろと沸いてきません。
五、口入屋 桂 枝女太(五代目文枝門下)
掃除、洗濯、裁縫、何でもオーケー。ソロバン、習字、お花も活けます。オマケに武芸も十八般。そんなスーパーお手伝いさん、一家に1人あったらええなあ。嫁はんの体調不良の時、筆者はつくづくそう思います。
上田 文世
●第599回 3月17日(土)夜席
《じっくりたっぷりの会ー桂 千朝の段》
開口0番(文太の前ばなし)
番外「おねおね」パート2
一、千早振る 桂 吉の丞(初代吉朝門下)
一時ほどではないにしても、モンゴル出身者が一大勢力を誇る大相撲の世界。ならば、大関・竜田川の故郷がモンゴルで、そこで豆腐屋になっても不思議ではない。そんな演出の東京落語を聞きました。
二、天狗さし 桂 千朝(米朝門下)
アラカンこと嵐寛寿郎が新撰組と大立ち回りする映画『鞍馬天狗』。ここのお客さんの大半はご存じの映画だ。そのアラカンが藤田まことに天狗役を譲ると言った。「あんた、細長い顔やさかい、覆面よう似合いまっせ」
三、坊主の遊び 桂 文太(五代目文枝門下)
「医者坊主、女郎買いに行く。女郎、寝坊にて(客を)送って出ぬゆえ、(客は)女郎を坊主にして、そうそうと帰りければ、女郎、やがて目を覚まして頭をなでて…」。寛政年間の江戸小噺に、こう書いてあるそうです。
〈仲入り〉
四、下町の散髪屋さん 桂 三風(三枝門下)
散髪屋さんのマーク、赤・青・白の回転灯は、中世ヨーロッパの外科医に由来するそうです。当時は外科医が理髪の仕事もしていて赤は血、白は包帯を現し、そこに理髪を示す青が入り、あんな回転灯になったそうです。
五、猫の忠信 桂 千朝(米朝門下)
猫のただばたらき=Aいや、猫による街おこしが多い。滋賀県湖南市の猫タウン「こにゃん市」、奈良市奈良町の「にゃらまち猫まつり」、佐賀市商店街の猫8匹で作る「八福猫団」などと、猫の手も足りぬほどです。
●第600回 3月18日(日)昼席
《第600回記念公演 》
開口0番(文太の前ばなし)
番外「おねおね」パート3
一、ひょうたん 桂 まめだ(文福門下)
秀吉の馬標、酒の容器でもある。春日八郎の唄に「瓢箪ブギ」がありましたね。♭飲めや歌えや世の中は 酒だ酒だよ瓢簞ブギ…滝がお酒になったとさ アほんとかネ…。まもなく桜の季節。浮かれ出たくなりました。
二、権助提灯 桂 春蝶(春蝶一門)
功成り名を遂げた明治維新の志士は、競って女を囲った。これを嘆いたのが西郷隆盛。ある日、志士を前に「おいも2人の愛妾を入れもんした」。そして大声で呼んだ。犬が2匹飛び出し、西郷に戯れかかったそうだ。
三、松島心中 桂 文太(五代目文枝門下)
心中を劇にして美化する、瓦版で盛大に取りあげる。「けしからん」と江戸幕府はたびたび「心中禁令」を出し、生き残ればさらし者にまでしましたが、心中は止まりません。今日もまた一組、松島へと向かいます。
〈仲入り〉
四、なないろ三味線 虹 友美
三味線の糸は3本。それを奏でて七色どころか、それ以上の興趣、趣向をお客さんにお届けします。十八番の技の冴え。百花繚乱のその音色。千軍万馬の勢いで繰り出す奥義。その数々を存分にお楽しみ下さい。
五、お楽しみ 笑福亭 鶴瓶(鶴瓶一門)
鶴瓶さんは2005年3月以来の登場。その時は『らくだ』でした。さて今回は何か。大きなお楽しみです。この欄執筆の小生は今回が最後。2年間お世話になりましたが、もうネタ切れです。さいなら。ご愛読多謝。