中川 桂(芸能史研究者・大阪大学非常勤講師)による
演題紹介
第356回 2003年10月5日
《たっぷり じっくりの会》笑福亭 伯枝の段

一、素人演芸大会オーディション/林家 笑丸(染丸門下)
噺の中に歌舞伎のせりふ回しや義太夫を加える『かけとり』と、踊りを披露する『紙屑屋』は、どちらもその昔に林家一門の落語家が練り上げたものと言われている。『かけとり』は初代・二代の林家菊丸、『紙屑屋』は初代林家蘭丸。笑丸さん自作のこの新作、ひょっとして「落語の中での余芸披露」という林家の伝統にのっとった後世に残る一席となるのか、それとも…?
二、平の陰/笑福亭 伯枝(故・六代目松鶴門下)
大阪駅前・マルビルの名物だった円形の電光ニュースが9月末をもって終了、27年半におよぶ歴史を閉じた。直接の理由は不況による広告収入の減少だが、携帯電話で各種情報が瞬時に得られる現在、その役割を終えたという面も大きい。「速さ」こそが勝負という現代社会で、即座に用件を伝えられる電話やFAX、Eメールは確かに重宝だが、手紙離れはますます進んでしまうのだろうか。
三、はてなの茶碗/桂 文華(文枝門下)
かつぎの油屋とは、店舗を構えず油を売り歩く行商人である。天秤棒の前後に油を入れた桶をつるし、油を量る油さし、雑巾の役目をはたす打ち藁、それに帳面と矢立を持って町々を回った。電気のない時代のことだからとても馴染み深い職業で、江戸川柳にもよく詠まれている。夜の灯火に使われるため「よく売れて秋と気がつく油売り」。次の句もシャレている…「油売り油は売れず油売る」。
中入り
四、ズバリ当てま賞〜「ぬ」の十番/桂 文太(文枝門下)
先月の「り」の九番では、東京移入の演目『悋気の提灯』が登場。東京では『権助提灯』のタイトルで親しまれている小品だが、文太師匠の脚色で笑いの多い一席になった。「女性ふたりに悋気があるからこそ、お互い相手の女性宅を勧めるのだ」という解釈も、なかなか秀逸。さて、今月の演題は「抜け○○」で語呂が合わされているようだが…。
今回は
a、『抜け蟹』文太師匠による移入ネタ。舞台は東海道48番目の坂下(さかのした)宿。
b、『抜け裏』同じく移入ネタ。長屋の路地通り抜けを防止するため、住人が策を練る。
c、『抜け雀』現在は東・西ともに演じられている一席。舞台は東海道第9番の小田原宿。
d、その他
五、鴻池の犬/笑福亭 柏枝(故・六代目松鶴門下)
鴻池家の始祖は、江戸初期に摂津の国川辺郡で清酒の醸造を始めた。今も伊丹市には「鴻池」の地名が残る。元禄期に家督を継いだ三代目善右衛門が大坂今橋で両替商を軌道に乗せ、一族繁栄の基礎を築いた。善右衛門が払い下げ地を開墾した土地は「鴻池新田」として一帯に広く鴻池の名がつき、JRの駅名ともなり、新田会所は今も文化財として保存公開されている。
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