
中川 桂(芸能史研究者・大阪大学非常勤講師)による
演題紹介
第375回 2005年6月22日
《新・じっくりたっぷりの会》月亭八天の段

一、みかん屋/桂 雀五郎(雀三郎門下)
古来中国ではミカンを柑子(こうじ)といい、日本でも古くは柑子と呼んだ。そのうち甘味のあるものを密柑(みつかん)といい、室町時代まではこの名だったが、これが縮まってミカンという名に変わったという。ポン酢を商ってる会社の社名も、たぶんここから来てるんでしょうな。味わう季節からいえば冬のものだが、梅雨のころに白色の花をつけるので、今の季節にもふさわしいネタといえましょうか。
二、胴斬り/月亭 八天(八方門下)
露の五郎兵衛の宝永二年(一七〇五)の噺本に原話が見られるので、落語成立期からある古い噺。ただし五郎兵衛の時代には、上半身・下半身がそれぞれ達者で、それぞれに適した働き口を見つけましたよ…という趣向だけで終わっていた。ちなみに、上半身は火の見櫓の火の番となる。江戸末期になると現在の展開のように、それぞれ働き口を見つけましたが、ちょっと問題が…という結末が出来上がっている。
三、鴻池の犬/笑福亭 呂鶴(呂鶴一門)
天赦日は、てんしゃび、またはてんしゃにちと読み、何をしても天が赦(ゆる)すという意味で、何をするにも最良の最高日をさす。細かく言うと百神が天に昇る日とされ、天が地上の万物の罪を赦すのだそうな。とくに婚姻には最良の日というから、大切な犬をもらい受けるにも絶好の日、というわけか。天赦日は年に五、六日しかなく、現代でいえば大安と、連休中の日曜日が重なったような感覚だろうか。
中入り
四、ズバリ当てま賞〜「ま」の三十番/桂 文太(故・五代目文枝門下)
先月の「や」の二十九番は、予想一番人気の『宿替え』だった。文太師匠はこれまでほとんど演じていないのだが、予想投票が最多とは、さすが田辺のお客さんというべきか。3月は『口入屋』で、それに続いて故・文枝師匠の得意ネタが高座にかけられた(ただし『宿替え』は若手の頃)。今月もそんな流れが続くのか、または流れが変わるのか。今回は「ま」の巻。
a、『饅頭怖い』おなじみの噺だが、上方のやり方は狐の化かし、怪談と盛りだくさん。
b、『松島心中』落語を扱った話題の金曜ドラマ「タイガー&ドラゴン」17日放送分の主題はこれ。
c、『松山鏡』狂言にも材を持つ、鏡のない村を取り上げた民話風の一席。
d、その他
五、二階ぞめき/月亭 八天(八方門下)
「ぞめく」はかなり古くから使われている言葉で、二種類の意味がある。一つめは「騒ぐ、浮かれ騒ぐ」という意味で、こちらは「ぞめき」の形で『方丈記』にも出ている。二つめは「遊廓や夜店をひやかして歩く」という意味で、こちらの用例がこの落語。「ぞめき」にはそのまま「素見、ひやかし」の意味もある。最近はやりの、テーマパークの元祖のような設定が面白い。
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